コラム

2017.6.12  経営者は労働者の「流動化」にどう対応すべきか⑴

弁護団代表 大川原 栄

【労働市場の現状と今後の問題点】

経営者にとって、昨今の「新規採用の困難(人手不足)」は極めて厳しいものです。

人手不足の原因が、労働市場(労働力需給バランス)における「売り手市場」(=労働力不足)にあることは明らかです。

この「売り手市場」という状況は、果たしてこれから何年くらい継続するのでしょうか。そして、仮に「売り手市場」が今後も継続するとした場合、それは今後の「雇用」にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

【労働市場の現状の原因】

まず、現在の「売り手市場」という雇用情勢は、今後多少の景気動向があるとしてもそれに左右されることはなく、今後10年、20年と続く状況だと断言できます。労働市場の激変の根本原因が日本における人口減にあることは明らかであり(このこと自体は数十年前から指摘されていたこと)、この根本原因を短期間で変更することは到底無理だからです。

国は、事実上、人口増に向けた政策を放棄・断念しており、今後は、労働力不足解消に向けた直接的な政策、具体的には外国人労働者の雇用拡大政策の導入(技能実習生の受け入れ拡大、外国人就労ビザの緩和)、数百万人、数千万人単位での移民受入の推進という政策をとることになります。しかし、今後のこのような国策が推移するとしても、それが実現されるまでの期間(少なくとも20年程度)は、仮にAI技術の導入等を進めるとしても、売り手市場が買い手市場に劇的に転換することはありえない事実なのです。

日本における人口減が、現実問題として何をもたらすのかについては、つい最近まで誰もが具体的にイメージすることができず、それが現在の「労働力不足=売り手市場」という形で現実化するまで「受け入れる」ことが出来なかったのです。しかも、未だ、この売り手市場が一過性の状況だと勘違いしている方々が少なくありませんが、経営者としては、今後も売り手市場が中長期的に継続するという事実を受け入れなければならないのです。

【売り手市場による影響】

現在の「新規採用の困難」事態は、それに止まるだけでなく、今後は「在籍労働者の企業離れ」という新たな事態に直面することになります。

多くの労働者は、長年、「売り手市場」とは真逆の「買い手市場」の中に身を置く過程で、「一度就職したらその企業に何としても留まることが得策である」と考えて行動してきました。それは、名目にかかわらず会社を退職した方の大半が、「再就職が困難である」、「仮に再就職しても以前より賃金等の条件が悪くなる」という事実を知っており、また、現実がその通りであったからです。

経営者の多くも、このような労働市場における「買い手市場」と労働者の意識状況に乗じた労務管理を行ってきました。「買い手市場」という状況下では「無限に労働者は供給される」「人材不足はありえない」ということが、労基法等の労働法制を無視・軽視する「ブラック」的経営を支えてきたのです。

しかし、労働市場における「売り手市場」という状況は、労働者自身に対して労働者の地位が変化したという情報(労働者が相対的に優位であること)を提供することになります。この情報は、まだまだ労働者に浸透してませんが、徐々にではあっても必ず労働者に浸透し、今後の労働者の意識と行動に大きな変化をもたらすことになります。その情報を得た労働者は、「労働条件がより良い企業への移動(企業離れ)」という模索を開始し、この動きが加速していくことになるのです。

この半年あるいは1年前(実際は数年前)から労働市場の需給バランスの激変が、社会全体において顕在化しています。この激変自体について、労働市場に強い関心を持っている経営者は既にそれを見抜いてそれなりの対応をしておりましたが(例えば、ユニクロによる契約社員の正社員化)、大半の経営者はこの売り手市場という状況が一過性の事態であり、一定の期間を経過すればいずれ「買い手市場」に戻ると判断してます。しかも、大半の経営者は、「売り手市場」が「人手不足」でけではなく労働者総体に「企業離れ」という大きな変化をもたらすことに気付いていないのです。

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